SSブログ

3年間の結果を纏めてみました。 [メボソムシクイ上種]


メボソムシクイは、以前は1種(数亜種)とされてきましたが、
その後の研究から、2012年9月発行の日本鳥類目録改訂第7版より
コムシクイ、オオムシクイ、メボソムシクイの3種に分かれ
別種として登録されました。
ただし、外見的に殆ど同じであるため、囀り、地鳴きが聞けなければ、
識別は難しいのが実情です。

なを、3種に分けられた事により、識別できない場合は、
メボソムシクイ上種、又はムシクイsp(species=種)と記載すべきと考えます。
ただ、以前はメボソムシクイ1種だったので、メボソムシクイ?と記載するのは
間違いだとは、思いません。

さて当地に9月下旬~10月の平地の公園に寄っていくムシクイについて、
今まで、メボソムシクイかオオムシクイなのか、識別に悩んでいました。
囀り、地鳴きは、殆どしない(今まで聞いた事がない)ので、
外見的に、識別するしか方法が無いのが実情です。

今年も、その時期が来たので、飽きもせず通って探しています。

メボソムシクイ上種1910dt40s.jpg
なを当地は、コムシクイの繁殖地、越冬地、通過地のいずれでもない為、
基本的に見られないと考えて、除外して考察しています。

※外見的識別では、メボソムシクイとオオムシクイでは傾向的な違いや
 オーバーラップする部分が多く、1個体での識別は不可能と考えます。
 しかし、多くの個体を観察する事によって、その傾向が分かると考え
 2017~2019年の3年間で、17個体(一部重複があると思います)観察しました。

結論から書きます。
当地(遠州地方平野部)を秋期に通過する個体は、
その多くが オオムシクイ と思われます。



1、まず、メボソムシクイ上種3種の特徴を記載します。

 (1)繁殖地。
  ●コムシクイ
  ユーラシア大陸北部とアラスカ西部で繁殖する。 
 
  ●オオムシクイ
  北海道知床半島、カムチャッカ半島、樺太。

  ●メボソムシクイ
  日本の本州、九州、四国の比較的高地。


 (2)秋期の渡りのルート(まだ正確には分かってないそうです)。
  ●コムシクイ
  朝鮮半島から九州を経由し、西南諸島、台湾などで越冬する。

  ●オオムシクイ

  北海道知床半島とカムチャッカ半島で繁殖した固体は、メボソムシクイより
  南側(太平洋側)を縦断し、樺太で繁殖した固体は、日本海側や日本海の離島を
  縦断し、フィリピンやインドネシアで越冬する。

  ●メボソムシクイ
  本州の中央部を縦断し、フィリピンなどで越冬する。


 (3)秋期における渡りの時期。
  ●コムシクイ
  8月下旬~10月上旬。

  ●オオムシクイ
  9月上旬以降~11月上旬(9月下旬~10月中旬が多い)

  ●メボソムシクイ
  9月上旬~10月下旬。


 (4)囀り、地鳴きによる識別。
  3種に違いがあるため、囀り、地鳴きによる識別が決定打になります。
  録音してソナグラムにかければ完璧です。
  ただ、秋期の渡りの個体は、殆ど鳴かないので、この方法が使えません。


 (5)外見による識別。
  ①初列風切最外側羽P10と最長初列雨覆PCとの差に傾向的違いがある。
   後で詳しく記載します。

  ②最外2対の尾羽の下面の外弁と内弁の白い羽縁が目立つ傾向がある。
   ただし、あくまで傾向であるため、参考程度と考えた方がよい。

  ③オオムシクイは、メボソムシクイよりも上面の緑色は鮮やかさに欠け、
   下面の黄色味も淡いが、幼鳥(1回冬羽)は成鳥より黄色味が強い傾向がある。
   ただし、撮影条件(天候や葉っぱの下とか)によっては、
   カメラのホワイトバランスが変わるため、色味については参考にならない。

  ④換羽は、繁殖地で完了しているので、幼鳥(1回冬羽)であっても成鳥と同じ。


2、観察結果。
 (1)観察個体数は、3年間で17個体です。(ただし観察日が近く同一個体を
  2重にカウント可能性もあります)。
  観察時期は主に8月下旬~10月下旬で8月中旬以前と11月以降については、
  観察場所には行きますが、主として探していません。
  観察場所は、太平洋から20km以内の遠州地方平野部の公園及び河川敷の雑木林。
  標高は、15m以下です。

 (2)1項-(2)、渡りのルートについて。
  オオムシクイの秋期の渡りのルートは、メボソムシクイより本州の南側の
  太平洋側に近い場所を通過するケースが多いようで、本観察場所では、
  オオムシクイの方が見られる可能性が高いと考えます。

 (3)1項-(3)、渡りの時期について。
  観察結果は以下の通りです。記事にしてない写真もあり見直した結果。
   2017年:5個体
   2018年:8個体
   2019年:4個体
  撮影していました。時期は、
     9月中旬以前:0
     9月下旬  :2
   10月上旬  :8
   10月中旬  :4
   10月下旬  :3
   11月上旬以降:0
  ●オオムシクイとメボソムシクイでは、オオムシクイの方が10日程度、
   秋期の渡りの時期が遅いようですが、オーバーラップする期間が長く
   1個体では判断出来ませんが、上記結果からメボソムシクイより
   オオムシクイの時期に近いと判断出来ます。

 (4)1項-(5)外見による識別。①初列風切最外側羽P10と最長初列雨覆PCとの差。
  論文に記載されている数値です。但し数値は雄雌の性の判断が
  できない為、雄雌合算した数値としています。

  ●メボソムシクイ:0.4~5.5mm 平均値2.9mm
  ●オオムシクイ :-4.0~3.7mm平均値0.1mm
    但し、北海道知床半島で繁殖する個体は0.0~3.7mm平均値1.6mm
 
  当地での測定結果。
  差が読み取れた7個体:0.0~2.5mm平均値1.4mm

  メボソムシクイの平均値は2.9mmであり、これが普通の個体です。
  当地では2.9mmに達する個体は1個体もいませんでした。
  平均値1.4mmから考えても、
  殆どがオオムシクイと判断するのが妥当だと考えます。

  
  詳細を以下に示します。以前の記事は以下を参照願います。


●2017/10月撮影の個体です。
メボソムシクイ1710ah35.jpg

この個体は、初列風切最外側羽P10がはっきり分かり、また最長初列雨覆PCも
分かる貴重な写真になりました。この個体のP10-PCは、ほぼ0mmです。
また論文に記載されている、オオムシクイの標準的なP10の写真と
殆ど同じである事が分かりました。
(但し、P10とPCは同一面ではない為、翼に対し垂直方向から撮らないと
誤差を生じますが、以下の写真は、ほぼ垂直方向から撮っているため
誤差は少ないものと思われます)。

オオムシクイ?1710ad20b.jpg

●2019本年撮影した個体です。
 ●本年1個体目(通算14体目)2019年9月下旬撮影。
メボソムシクイ上種1909am40sb_e.jpg

メボソムシクイ上種1909at40s.jpg
 横から見てもP10の先端は殆ど写りません。次の写真でやっと写りました。
メボソムシクイ上種1909aa57s.jpg
 拡大です。
メボソムシクイ上種1909ab12sb.jpg

 ●本年2個体目(通算15体目)2019年10月上旬撮影。
メボソムシクイ上種1910ae30s.jpg

メボソムシクイ上種1910af30s.jpg
 拡大です。
メボソムシクイ上種1910af12sb.jpg

 ●本年3個体目(通算16体目)2019年10月上旬撮影は、直ぐに居なくなったので
  よく分かりません。

 ●本年4個体目(通算17体目)2019年10月中旬撮影。
  この子は、約2時間にわたり遊んでくれて、1000枚あまり撮影してしまいました。
  なを、ブレを防止するため、ssを1/800secまで上げてあるのでisoが高く
  画像がザラザラですがご容赦下さい。曇天の木の下なのでisoは5000~12800
  くらいになってます。
メボソムシクイ上種1910ce30s.jpg

メボソムシクイ上種1910cs30s.jpg
 最初はP10が全く見えなかったのですが、虫を捕まえた時P10が外側に
 出てきたので分かりました。
メボソムシクイ上種1910cv30s_e.jpg
 拡大です。
メボソムシクイ上種1910cv12s_e.jpg
 その後、羽繕いをして、P10が、また元に戻ってしまいました。

※この子は、色々な事をしてくれてP10を見せてくれました。
 ただ垂直方向では無いので、測定値には誤差があると考え採用していません。

 後ろ斜めからだとP10とPCの差が大きく見える。
メボソムシクイ上種1910ck30s.jpg

メボソムシクイ上種1910cl30s.jpg

 こういう方向だとP10とPCの差は小さくみえる。
メボソムシクイ上種1910cn30s.jpg

 貧弱なP10が分かります。
メボソムシクイ上種1910dh30s.jpg

メボソムシクイ上種1910dp40s.jpg
 
 なを長さは、全長をメボソムシクイ上種の標準の130mmとし、
 元写真のピクセル数から算出してます。
 数字はピクセル数。脚の太さは1.32mmでした。
メボソムシクイ上種1910dr35sb.jpg

 (5)1項-(5)外見による識別。
  ②最外2対の尾羽の下面の外弁と内弁の白い羽縁が目立つ
   
確かに目立つ個体は居ますが、全ての個体に当てはまる訳ではなく
   参考程度にしかならない事が分かりました。


以上、私なりに纏めてみましたが、まだ納得は出来ていません。
これからも、暇があれば調べてみたいと思います。

何時間も、重いカメラを振り回して歩き回るのは、かなり疲れて
眼、手、脚、腰はもうボロボロです。
だけど、せっかく頑張ったので纏めてみました。
ただ、撮るだけじゃあ、つまらないし、この趣味も長続きしないと思ってます。
やはり、目標をもって、それを突き詰める事にやりがいを感じ、
頑張れるのだと思います。人生、何事も目標が大事だと思います。
偉そうな事を言ってますが、単に”知
りたい”という私個人の欲求から
初めた事です。さあ、次は何を目標にしましょうか・・・。

おしまい。


参考文献:
論文:”メボソムシクイ上種3種の外部形質を用いた識別方法”
書籍:”日本の渡り鳥観察ガイド”


nice!(31)  コメント(10) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 31

コメント 10

アヨアン・イゴカー

細かくお調べになっていて、素晴らしいですね。
とても付いてゆけませんが、勉強になります。
by アヨアン・イゴカー (2019-10-20 10:27) 

えれあ

ほぼ見分けがつかない種類で、個人研究らしい判定方法を見聞きする事があります。
こういった調査&研究の積み重ねなんでしょうね。
私は春の声の区別すら出来ないので、それぐらいは何とかしたいと思っています。

by えれあ (2019-10-20 18:07) 

queso

「ムシクイは鳴いてくれないと識別できない」から脱却したいとは
思っておりますが、やはり難しいです。
基本のセンダイ、メボソ、エゾの3種類の見分けをまずしっかり
できないとですね・・・。
by queso (2019-10-21 15:40) 

takapy77

アヨアン・イゴカー さん、今晩は。
これは、難しかったです。鳴いてくれれば、何て事ないのですが、
鳴いてくれないものですから。でも、これで私も色々と勉強に
なりました。こういう事でもしないと、引きこもりになりそうですし。

by takapy77 (2019-10-21 19:11) 

takapy77

えれあ さん、今晩は。
メボソムシクイが、3種に分けられた、きっかけは、
変な鳴き方をするムシクイがいると言う、バードウォッチャーの
噂からだそうです。
野鳥研究家の数も限られていますので、限界があります。
やはり、一般のバードウォッチャーの情報も大切だと思います。

by takapy77 (2019-10-21 19:16) 

takapy77

queso さん、今晩は。
私も、数年前までは、殆ど識別が出来ませんでした。
今回、調べるにつれてムシクイ基本3種(センダイ、エゾ、メボソ)は、
Jizz(全体的な印象や見た目)で分かるようになりました。
何事も興味をもって調べれば、分かってきます。
調べるって大切だと思います。

by takapy77 (2019-10-21 19:27) 

ramblin

 このtakapy77さんの継続的な観察には頭が下がります。
観察条件はかなり厳しそうなので精神的にもきつかった
のではないでしょうか。横向きの図鑑的なポーズに於いても
PCは兎も角P10はしっかり見えない事が多いので困ります。
 やはり秋の渡り時に平野部で多く見られるのはオオムシクイ
でしょうね(日本の渡り観察ガイドの記載ルートによれば)。
 県内の少し標高の高いポイントではメボソムシクイも見られます。
水場での観察は安定的なポジションが得られるので効率的で
疲労感も少ないです。
 兎に角takapy77さんの観察を深化させようとする熱は
素晴らしいです。だからもう少し体力的に楽に観察出来る
場所が得られたら鬼に金棒ですね。
by ramblin (2019-10-21 22:03) 

takapy77

ramblin さん、今晩は。
観察条件は厳しいのですが、チョコマカと良く動くので
意外と見つけやすいです。(慣れてきたからかな~)。
また、ムシクイさんは、採餌に夢中なのか、近くにいっても
逃げないし、色々な方向から撮れるので、いい事もあります。
ただ、居るのは木の上なので、重いカメラを振り回わして
歩き回わったり、上方ばかり見ているので、体は疲れます。
三脚に大砲レンズでは、撮れないと思います。
水場などで、動かないで待っている方が、私は辛いです。
結果から殆どがオオムシクイという事が分かりましたが、
今回は”日本の渡り観察ガイド”が、大変参考になりました。
今年は、あまり鳴かないと思っていた、コサメやエゾビタキも
地鳴きしていたので、その内、地鳴きするムシクイも見つけられる
ような気もしています。その子に会うまで、続けたいと思います。
当県でも富士山周辺とかの標高が高い所では、メボソムシクイが
繁殖していますが、近場では標高が高い(1500mクラス)所が
ないので、見られないです。ただ、数は少ないと思いますが
平地の公園を通過する個体も居ると思ってます。
いずれにせよ、少し疲れたので、休養したいですね。

by takapy77 (2019-10-22 19:53) 

美美

素晴らしい観察力ですね!
私みたいに可愛い鳥さんに出会えたあ、
で終わっていたらダメですね(^^;
by 美美 (2019-10-23 18:35) 

takapy77

美美 さん、今晩は。
楽しみ方は、色々あるので、可愛い鳥さんに出会えたあ、
で終わってもいいと思いますよ。私だって可愛い鳥さんに
会えたら嬉しいですから。
私は、知りたいと思ったら、突っ込まないと気が済まない性格
なんですよ。まあ、それが楽しいのですけどね。

by takapy77 (2019-10-24 19:18) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。